ある日、母から電話があった。ひどい頭痛で、声も弱々しい。「痛くて眠れないの。ご飯も食べられないくらい」と。心配になってすぐに駆けつけた。
最近、脳ドックに行ったばかりだった。それでも続く頭痛に、私も母も不安が募った。藁にもすがる思いで、頭痛外来を訪ねた。
診察室に入ると、先生は母の様子をじっと見た。そして、穏やかな口調で、でもはっきりとこう言った。「姿勢ですね。背筋が弱って、頭が前に出て、肩も前に丸まっていますよ」
驚いた。まさか、長年悩まされてきた頭痛の原因が、姿勢にあったなんて。先生は続けた。「薬は出しません。根本的な治療にはなりませんし、依存性もあります。飲むほどに効かなくなることもありますから。大切なのは、ただ姿勢よく過ごすことなんです」
その日の帰り道、すぐに背筋が伸びるジムクッションを購入し、家で肩甲骨まわりと背中のストレッチをした。するとどうだろう。あんなに苦しんでいた頭痛が、すっと引いたという。もちろん、まだ痛む日もあるけれど、以前に比べると、ずいぶんと楽になったようだ。
もしあの時、頭痛薬だけを処方されて終わっていたら、と考えると、ぞっとする。治ることもなく、毎日強い薬を飲み続け、姿勢はますます悪くなり、体のあちこちに不調が出ていたかもしれない。
もちろん薬が有効、薬でないと治らないことも多いと思う。でも今回はそうではなかった。
先生は最後にこう言った。「痛くなくなったら、もう来なくていいですよ」その言葉に、不思議なほどの自信と、患者への深い信頼を感じた。自分の体を根本から治そうとしてくれる医者がいる。その事実に、心から安堵した。