私たちは、何気なく口にする飲み物からも、その時代や社会の空気を知ることができる。最近、特に感じるのは、低アルコールやノンアルコール飲料が増えたことだ。かつては、お酒を飲むことが大人の社交場だったけれど、今は、飲まなくても楽しめる選択肢が、当たり前のように並んでいる。
一方で、世界では抹茶が奪い合いになっているという。日本の文化である抹茶が、地球の裏側でも人気を博し、誰もがその深い味わいを求めている。
考えてみれば、これまで飲み物は、社会の変化と私たちの心や体に働きかけるためのものだったのかもしれない。
頑張りたい時には、エナジードリンク。24時間働けますか、のリゲインから、翼をさずけるレッドブルへと変わった。抹茶においても、アメリカ西海岸で流行った当初はカフェインの量の多さからエナジードリンクの文脈だったと言う。
その後休息を意味する「チル」という言葉が流行った。頑張る→休むへの変化だ。コンビニでもチルを題材にした飲み物が並び、チルする?という言葉も出てきた。GABAが含まれる製品が増えたのもこのタイミングだった。
日常から少し離れて心を整えたいとして、リトリートを目的とした飲み物も出てきた。抹茶は今、「リトリート」(退却)という文脈を得てかなりの広がりを見せている。抹茶ブームの始まりはエナジーだったが、今は日本の茶器を集め抹茶を入れる様子をSNSに投稿している。アメリカ東海岸では、抹茶を待つ行列を待っている時間もあなたが自分と向き合う貴重な時間、大人しく抹茶を待ちましょうとポスターが貼られている。日常から離れ、心と体をリセットする。そのための飲料は、ただの飲み物ではなく、儀式の一部となった。ハーブティーをゆっくりと淹れたり、香り高いアロマを焚いたり。抹茶が世界でそれに並んだと言える。
そして今、私は「レジリエンス(弾性・回復力)」という言葉がこれからの飲み物の新しいテーマになるような気がしている。レジリエンスとは、困難な状況に直面しても、しなやかに立ち直る力のことだ。これまでの飲み物は、外的な力(エナジー)や、内的な安らぎ(チル、リトリート)を求めていた。でも、これからは、どんな状況でも、自分らしくいられるための、内なる回復力そのものを育む飲み物が求められるのではないか。
私たちは、頑張ることだけでは生きていけないと知った。疲れて休んだり、時には後ろに下がる時間も大切だと気づいた。そして、さらにその先の、再び立ち上がり、前を向くためのしなやかな強さこそが、これからの時代を生き抜くために必要な力だと、飲み物は静かに語りかけてくれているのかもしれない。
お腹の匂いで超回復させてくれる猫

