8月上旬の朝。布袋農園の有志たちで福岡県八女市へと向かいました。普段から福岡に住む2名に加え、この日のために東京から飛行機でくる2名も。福岡市内からの移動は、車で向かいます。渋滞の都市高速と九州自動車道でブレーキを踏み、どんよりした雨雲を眺めながら。
この日は、布袋農園でお届けしている「甘茶」の茶畑や加工の様子を見学するため、奥八女といわれる八女市のさらに奥、星野村の農家さんに伺いました。約束の場所までは福岡市内から約1時間半。インターチェンジを降りると、どこか懐かしい街並みが見え、徐々にお茶や植物の鮮やかな緑が増えてきます。
収穫のお手伝いや、甘茶についてのお話をたっぷり伺う……参加者一同そんなワクワクを胸に持っていました。けれども、道中の雨は強くなるばかり。通り雨のようだから、もしかしたらすぐに止むかもしれないと期待を寄せながら向かいます。
現地に着いたときには、予定していた作業はすべて中断中。残念ですが、自然の営みには逆らえません。農園の代表者さんがお忙しい中お時間をくださり、お茶作りのこと、「甘茶」のこと、そして星野村のことを詳しく聞かせてくださいました(美味しいお茶をいただきながら!)。元々甘茶は、野草茶の中でも希少な存在で、栽培方法が完全には確立されておらず、お茶として葉っぱを摘むまでに数年単位の時間が必要だということ。そんな中で、最近たくさんの方に手に取っていただき、とても驚いているということも伺いました。
雨が小降りになった合間に、「せっかくなので」と少しわがままを言って、茶畑に案内していただきました。


しかし、畑に着いた頃にはまた土砂降りに……。晴れの日なら、星野村を見渡す美しい景色が見れるそうなのですが。

ちなみに、甘茶は紫陽花(アジサイ)の仲間です。詳しくは、アジサイ科(ユキノシタ科)アジサイ属の落葉低木で、日本原産であるヤマアジサイ(山紫陽花)の変種です。実際に見てみると、花や葉の形は、我々に馴染みのあるガクアジサイ(額紫陽花)に非常に似ています。
連日の酷暑が続いていた中、久しぶりの雨でした。こんな日に限って…… と思っていたものの、水滴に打たれる葉を見て、改めて気づいたのです。わたしたちは自然の一部で、植物も、人も、雨に合わせて生きているのだと。
星野村をはじめ、全国でお世話になっている生産者さんは、毎年変わらずお茶や植物を育て続けています。晴れの日も、雨の日も、猛暑の日も。それは、何十年、もしかしたらもっと長い時間続いてきた、静かで、尊い営みです。その積み重ねの先に、わたしたちがいただいている一杯があります。
枝ごと収穫した甘茶は、手作業で葉のみ選り分けていくそうです。その作業も見学させていただきました。この後に葉を加工し、おいしいお茶に仕上げていきます。


甘茶は、砂糖や糖分が含まれていないにも関わらず、茶葉からしっかりとした甘みを感じる不思議なお茶です。加工前の「生の葉」に甘味はありませんが、葉を蒸して揉み発酵させる工程で、苦味成分(グルコフィロウルシン)が酵素で分解され、甘味成分(フィロズルチン)へと変化することで強い甘さを感じられるようになります。フィロズルチンの甘味は砂糖の200倍ともいわれています。甘味成分であり糖分ではないため、カロリーはありません。
この発酵・乾燥する工程は、実はとても難しく、均一に加工しないと「えぐ味(苦味・渋味)」が残ってしまいます。お伺いした農園では、全体を均一に仕上げる加工技術によって、おいしい甘茶に仕上げているとのことでした。なお、濃く煮出しすぎたり、長時間抽出したりすると、えぐ味が感じられる場合があるので、お好みで加減しながらお召し上がりください。
古くは、仏様にお供えされる神聖なお茶としても親しまれていた甘茶ですが、コロナ禍を経て全国の「花まつり」の開催も減り、今は知る人も、生産する人も、少なくなっているようです。
我々布袋農園が大切にしたいのは、そんな甘茶のやさしさだけではなく、それを育てている人のあたたかさや、そこに流れる時間ごと、手渡すことです。お茶が「どこで、誰が、どうやって」つくられているのか。その背景まで含めて、単なる商品ではなく、物語として届けていけると良いなと願っています。
だからこそ、農家さんや、生産に携わる方々の存在は、何よりもかけがいのないものです。今回、ご縁あって星野村の農家さんとご一緒できているのは、我々が大切にする価値観と、長年丁寧に生産を続け、お客様目線での加工を続ける、農家さんとの奇跡的な巡り合わせだと思っています。
この日は、ほんの少しだけ、星野村の“空気”に触れただけだったのかもしれません。でもその空気が、生産者さんの思いが、見学したメンバーの中に強く残りました。雨に濡れた畑や、やわらかく笑う皆さんの顔が、今も目に浮かびます。
次は晴れた星野村に、また伺います。
